2007年03月01日
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オルランドの人工惑星

Written By: 遠野秋彦連絡先

 それが、いったいいつの出来事だったのかは意味が無いだろう。

 老いない身体を意図せずして持つことになったオルランド人にとって、時間は無限にあるのだ。

 ともかく、オルランドのトップが集まる定例会議が開催されていた。

 しかし、完成されたシステムで運営されるオルランドのような社会ではよくあることだが、何も議題がなかった。

 そこで、議長役の参謀総長は困り果てた。せっかく重要な役職の人間が集まったというのに、何もありませんでは問題になりかねない。

 そこで、参謀総長は臨席したオルランド皇帝に話を振った。

 「皇帝陛下にあらせられましては、何かお気づきのことや、お望みのことはありませんでしょうか?」

 即座に皇帝陛下はニヤリと笑って一言言った。「退屈だ。どこかに探検にでも行きたいな。2Kクラスのバトルクルーザーの1隻ぐらい、私のために手配できないものかな」

 もちろん、出席者全員が即座に反対した。オルランド人は確かに年を取らないが、殺されれば死ぬのだ。オルランド人は子を成せない以上、皇帝の後継者はない。つまり、皇帝の死イコール皇帝が永遠に失われることである。それは、長い退屈な時間をしのぐために、皇帝を使って様々な行事を執り行ってきた彼らにとって、致命的な痛手なのだ。

 その結果、皇帝の探検は即座に却下された。そこまでなら、いつもの話と言えよう。

 だが、その日は少しだけ違った。

 皇帝はこう言った。

 「人工惑星の内部には、一度も使われない宇宙艦が数え切れないほど保管されているというのに……。私を乗せて人工惑星から旅立つ宇宙艦は一隻もないとは……」

 そこで皇帝はため息をついた。

 「いっそ、私専用の船を品定めに、保管庫に行ってみようか……」

 そこで周囲は止めに入った。「人工惑星も、保管されている宇宙艦も、自己増殖する自動機械が建造したもので、人が足を踏み入れたことがない場所がいくつもあり、それらに何があるか分からず危険です」

 そこで皇帝ははたと気付いた。

 「灯台もと暗し! そうか、人工惑星の中にも、人跡未踏の地があるのか!」

 もう誰も皇帝を止められなかった。

 皇帝は、自らの趣味的行動だと宣言し、仲間を集め、人工惑星内の探検を始めることにしたのだ。

 準備が万端に整い、皇帝の探検隊は人工惑星の奥へと出発した。

 オルランドの人々は、その探検隊を歓声で送り出した。何しろ、こういうイベントは彼らには良い退屈しのぎである。

 送り出した人々が酒など飲みながら、探検隊が何日後に戻ってくるか議論を戦わせていると、ひょっこりと探検隊は戻ってきた。

 人々はあっけに取られて、皇帝ら探検隊の面々を見た。

 「ごめん。どこまで歩いても、同じ部屋の繰り返しで全く面白くなかった……。この先もずっと同じ繰り返しだと聞いて戻ってきた」皇帝はそう告げるとペコリと頭を下げた。

 人々が盛大にずっこけたのは言うまでもない。

 これは、人工惑星の日常の一こまであった。

 ちなみに、実はとんでもない刺激的な秘密を人工惑星は抱え込んでいて、探検には価値があるとオルランド人や皇帝が気付くのは、もっと先の話である。

(遠野秋彦・作 ©2007 TOHNO, Akihiko)

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